蓬門

世の隅でコソコソと蠢く

たまたま見つけた記事から

帆船 日本丸の船長をされていた橋本進さんの講演をまとめた記事を、別の調べごとをしていたところ偶然見つけた。
その中に、帆船教育の意義を説いた部分があったので引用したい。

船員教育になぜ帆船実習が必要なのかという議論は古くからありました。特に戦後の昭和27年(1952)、“日本丸”の帆装を完全に復旧しようと計画したとき、
さらに昭和48年(1973)のオイルショック前後に“日本丸”の代替船を造らねばならないというときに、大いに議論されました。そのとき必ず出てくるのは
「時代遅れの帆船教育よりも、今すぐ役に立つ人間をつくれ」という、いわゆる即戦論で、これが船会社の要望でした。

                    〜〜中略〜〜

 第1は、一人一人が手にマメをつくり、額に汗して航海を成就することによって働くことの喜びを知ることができます。
最近、テレビや新聞でよく話題になる「ニートNEET)」という言葉がありますが、この言葉はイギリスの労働政策のなかで生まれた言葉だそうです。「NEET」とは、
「Not in Education, Employment or Training.」の略で、「学校へ行こうとせず、就労もせず、そのトレーニングも受けようとしない」人たちのこと、要するに汗をかく
ことを嫌う連中のことを指しているのではないかと思います。
 第2は、大自然を相手に生活するので、自然とのバランスを考える均整の取れた人間が形成されます。帆船が一番美しいのは、自然とのバランスが保たれているときです。
また、その時に一番よく走ります。風が弱ければ帆をいっぱい張り、風がなくなれば風が出るまで待ちます。風が強くなれば、当然、帆を畳んで少なくしなければなりません。
このように、帆船では自然とのバランスを考えながら生活するようになります。覚えておいて頂きたいのは、帆船が一番美しく見えるのは自然とのバランスがとれている時だと
言うこと、操船者も、そういう感覚で帆船を動かしているということです。
 第3は、帆船による集団生活は人間同士あるいは人と船とのバランスをとることを学びます。つまり、集団生活に必要な我慢と意志の力で自分の衝動・欲望・感情などをおさ
える、いわゆる、自分をコントロールする術を学ぶことができます。また、船の中で集団生活をするためには規律が必要で、それを守らないと集団生活はできません。集団生活
は人間が法に従う、ルールを守るという基本を自然に体得する場であります。
 第4は、自分を集団の中の一員として置くという経験は、お互いを認めあうことを知ります。自分が集団を作っているという自覚を持つためには、互いをよく知らなければなり
ません。そして、お互いをよく知ったならば「次は君が○○当番で、当番長だ」と指名されても「よし、やろう」となる。これがリーダーシップの基本なのです。つまり、リーダー
シップの基本はお互いを認め合うことであり、帆船ではそれを体得することができます。
 第5は、船は運命共同体ですから、船で同じ釜の飯を食ったという連帯感は、友愛と協調の精神を育てます。そして、他の者のためにも尽くさねばならぬという自覚を起こさせ、
ボランティア活動の啓発になります。私と一緒に練習船に乗ったことのある事務長に、三橋敏雄という方がおられました。すでに故人となられましたが、この方から戴いた句集に、
 「手をあげて この世の友は 来たりけり」
という句がありました。同じ釜の飯を食った仲間同士は、歳をとっても「よっ」と片手を挙げれば、それで全て了解なのです。この方は高名な俳人であったということをあとで知りました。
 第6は、練習船に乗船中の実習生は一度は外国へ航海するので、国際人としてのマナーを身につけることができます。遠洋航海に出かけるとき実習生に注意するのは、「外地では服装に
気を付けて、日本人としてのプライドを持つこと。絶対に腰を下ろしたり、しゃがみ込んだりしないこと」などでした。

https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00459/contents/0011.htm より


私が読む限り、「それ、本当に他の練習船ではできないの?」と思わずにはいられない内容だ。
結局、現時点で明らかになっている帆船教育の意義は、精神論以外の何者でもなく、事故を減らせるとか、経済的な運航が身につくとか、具体的なものはないのだ。
むしろ、一部は戸塚ヨットスクールの思想に通じる部分もあって空恐ろしく思える。